お知らせ

登録していただいた精子提供者様からのメッセージ

ドナーリンク・ジャパンに登録してくださった精子提供を経験されている80代後半の男性からメッセージをいただきました。是非、皆様と共有したいと思います。(2023年6月6日に登録)

提供をすることになったきっかけ

1964年頃、関西の大学の学生だったときに、寮の友人から精子提供してくれる人を探していると言われ、10回ほど提供しました。当時は採精したばかり精子で人工授精するため、患者が来る日に合わせて医師に呼ばれ、精子を提供しました。寮は大学内にあったので、すぐに病院に行けることから、寮の学生に声をかけたのではないかと思います。

声をかけてくれた友人は、家に帰った時に母親にその話をしたら「そういうことはやめなさい」と言われ、やめることにしたと言っていました。自分は5歳で母親を亡くしているので、母親には話していませんが、知り合いの女性に、友人のこととして精子提供の話をすると、とても厳しい口調で提供する人のことを否定されました。それで、きっと女性には抵抗感があるのだろうと思いました。そんなことから、自分も「もう、やめよう」と先生に提供を辞めることを伝えました。すると先生からは「ご苦労さんでした」とあっさり言われ、提供は終わりました。医師は、同じ人の精子を何回も使いたくなかったのかもしれません。

自分は自発的に協力したので報酬はもらっていません。提供を始めてしばらくしてから、提供すると牛乳を1本もらったりしましたが・・。

先生からは絶対に秘密にするよう言われていたので、この経験は誰にも話すことはありませんでした。でも、生まれた人はいつか親から提供で生まれたことを聞くだろうと想像していました。そして育ての父親とは血がつながっていなくても、育ててくれた父親が自分の父親だと思って欲しいと思っていました。

私の父は産婦人科の開業医だったので、医院には不妊の人がたくさん来ていて、子どものいない人が切実に悩んでいるということを身近に知っていました。父は「治療が成功するとは限らないから、養子をもらいなさい」とよく患者さんに勧めていました。そうしたこともあって当時は、自分の精子提供で子どもができるなら、それはよい事なのではないかと思っていました。

ドナーリンク・ジャパンに登録しようと思ったきっかけ

提供した人が生まれた人に会うかどうかは別の問題として、私は、生まれた人の出自を知る権利は大事だと思っています。生まれた人が苦痛を感じていたり、悩んでいるのであれば、出自を知る権利を保障し、情報を開示する制度が必要で、何とかその道が開けないものかと私も思っていました。

私は児童福祉関連で新しく制度が必要だと考えていましたが、ドナーリンク・ジャパンが組織されたことを聞いて、これが今後の法制化につながっていけばと思っています。

私は元医師としても、生まれた子どもが自分の遺伝的な背景などを知ることの大事さも知っています。ドナーリンク・ジャパンのような組織が仲介してくれるのであれば、生まれた人が望めば、自分の情報を開示してもいいと思い、登録しました。

自分の情報に関して

提供のことは実はずっと忘れていました。ですが近年、精子提供で生まれた人の話をよく見聞きするようになり、自分が提供したこともこのまま秘密にしていていいのかと思うようになりました。

自身にも子どもがいるので、きっと自分の提供で何人か子どもが生まれているだろうと思います。それで、数年前に、自分の家族には精子提供をした経験があることを話しました。

妻は、過去の話だからと、穏やかに受け止めてくれて、「その子が幸せであればいいね」と言ってくれました。子どもたちにも話しましたが、ほとんど反応はありませんでした。でも、家族全員が私が提供者だったことを知っているので、安心して、ドナーリンク・ジャパンにも登録も出来たと思います。

自分も年齢を重ね、最近認知症の症状も出てきています。今後もし自分が対応できなくなったり、いなくなったとしても、ドナーリンク・ジャパンから連絡がきたら、長男に対応してほしいと言ってあります。家族が知ってくれているので、すべての情報を登録することができました。

最後に

本音としては、年齢的にも提供で生まれた子どもと会えるとは思っていません。とにかく、ドナーリンク・ジャパンへの自分の登録をきっかけに、これが制度を作る礎になってくれればと考えています。

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ドナーリンク・ジャパンから

ドナーリンク・ジャパンでは、ドナーとして登録してくださる方の条件を、「日本産科婦人科学会に登録されている医療機関で提供の経験がある方」と定めています。ですが、実はこの方が提供した医療機関は、日本産科婦人科学会の精子提供の実施機関として登録されていたことはありません。

たまたまた、この方と出会い、お話しする機会があり、DNAマーカーリンク検査で、ドナーリンクの情報を残していただくことに協力していただけました。

昔は今よりも、もっと多くの医療機関で、AIDが行われていたのだと想像します。実際に、当事者の方からではなく、そうした話を、活動をすすめる中でいくかうかがいました。今後は、精子提供を経験された方のDNAマーカーリンク検査での情報登録の条件「日本産科婦人科学会に登録されている」という部分は変更していく必要があるかと思っています。

ドナーリンクの活動をはじめて1年になりますが、まだドナーの方からの問い合わせはほとんどありません。是非、精子提供の経験のある方は、ドナーリンク・ジャパンへの登録を検討されて欲しいと思います。

(文責:仙波由加里)

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