提供型生殖補助医療について

実親を知った後の養⼦縁組家族のかたち

養子や実親との交流のない里子にとってルーツ探しとは、子どもの生みの親の属性や誕生・親子分離の経過についての情報を求めたり、生みの親との再会(reunion)を企図したりすること(野辺,2011)と言われています。子どもの権利条約では児童はできる限りその父母を知る権利を有するとし、第8条において、家族関係を含むその身元関係事項について不法に干渉されることなく保持する権利について定められています。養子などのルーツである親を知る権利は、現在では養親(里親)との間ですでに「真実告知」が行われていることが前提にあると考えられています。個人差はありますが、今後子どもの成長に伴い、実親のことをもっと知りたいと思うようになることを予想して、その後も出自について子どもから遠慮なく話せるオープンな関係にしておくことが大事と言われています。子どもが知りたいと思う裏には、なぜ自分は育ててもらえなかったのか、手離されたのかを知ることにより、自分の存在を肯定したいという思いがある人が多いと言われています。

 成人してから探して実親にあった人からお話を伺ったことがあります。実親やきょうだいの身体的特徴が似たところを見つけて生理的に自分を受け入れられたと言います。しかしその後交流は続かなかったそうです。どうしてか尋ねたところ“思い出”がないからとおっしゃっていました。

 カナダでは「養子縁組」で肉親捜しおよび再会おためのサービスも規定され、出自を知る権利が保障されています。以下のお話は15年位前にカナダの養親さんから子どもが19歳になって実親さんと再会した後の家族の形について示唆に富む話をしてくださいました。

 「子どものもっている『愛』のサイズは、風船と同じようにその場その場でふくれていくものと私たち夫婦は考えています。大きさが一つに決まっているとは思っていません。子どもは19歳になって生みの母親ときょうだいに会いました。彼らは子どもの『愛』の中に入りました。だからといって私たちがその『愛』の輪から追い出されるのではありません。それまで私たちのいた『愛』の輪のなかに、いまでは子どもの恋人や生みの親、きょうだいたちが入って輪が大きくなっただけです。誰も押し出されていません。これからは、子どもがつくる家族も入り、輪はもっと大きくなることでしょう(森,「里親入門」2005)」

提供による生殖補助医療で生まれたことを子どもに伝えることについて不安に思っている親御さんは少なくないかもしれません。家族にはいろいろな形があり、生まれた子どもさんに、父と母があなたの誕生を心から望み、家族として生きていることの喜びを自分たちの選択に自信をもって伝えてほしいと思います。それが「真実告知」なのです。家族として共に生活することで“思い出”がつくられ連続した子どものアイデンティティが構築されていきます。育ててくれた両親と子どもに命を与えてくれた提供者も含めた視点から大きな愛に包まれて育ってきたことに思いが至った時に、感謝とともに生きていくことを可能にするのではないかと思いました。

(文責:森和子)

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