提供型生殖補助医療について

「真実告知」後の親子関係の再構築

「真実告知」から始まり血縁がないことを踏まえ養親と養子が血縁を超えて「親子になる」プロセスについて考えてみたいと思います。筆者は25年に渡り養子縁組親子を対象に継続的に親子関係のエピソードについてお話を聞かせてもらってきました。お話を伺う時の手立てとして縦軸と横軸を引いて上方は「嬉しい」、下方は「辛い」と感じた時を曲線(ライフライン)で時の経過に従って描いてもらってからお話をお聞きしました。そして最後は図のように養母のライフライン(直線)で表された経験と30歳前後となった養子の経験をペアデータにして経験の違いを対比しました(図)。その結果,多くの養親は子どもを家庭に迎えた直後と思春期の「試し行動」で「とても辛い」と感じる経験と捉えていました。特に「試し行動」の激しかった子どもを迎えた養親にとっては未知の実親からの遺伝的要因の不安や養親の元に来る前の生活よる影響が養親の受け入れを困難にしていました。ある養母さんは迎えた子どもがあまりにやんちゃすぎていつも謝ってばかりいたそうです。ある時物を投げて女の子の顔に傷をつけてしまい、相手の家に行って土下座をして誤ったそうです。これ以上は育てられないと子どもを施設に帰そうと決断しました。そのことを10歳の実子に話したところ、じっとうつむいて考えていた実子は「もしそれが僕だったらどこに返すんだ」と言ったそうです。養母は預かっている子どもと思うからそんな考えになり、ここで施設に帰したらこの子どもは何度も見捨てられた思いを抱えていかなければならないことに思いが至り、その後養子縁組をされました。

一方ほとんどの養子たちは家庭に迎えられてから「嬉しい」思いの中で過ごしていました。養子たちは自分の言動が養親を苦しめているとも,養親が自分を嫌いになるとも思っていなかったと語っていました。つまり養子である子どもは養親家庭で生活することで,養親の子どもになっていたのです。ラインが下がったのは就職してからの自分自身の悩みでした(森,2022)。

図.養母と養子のライフラインのペアデータ1例

「施設に帰す」「離縁する」という選択に行ってしまいそうな深い葛藤に直面した時に,家族や里親・養親の自助グループ仲間、近隣の人や地域の社会資源、児童相談所や病院などの専門機関に相談等することで葛藤を乗り越えることの重要性と社会の支援の必要性を再確認しました。養親が悪戦苦闘しながらも「この子はこの子でいい!」とありのままに受け入れられた時に、親として大きく成長し「血縁を超えて親になる」ことが可能になったのではないかと思われました。

最近ある養親さんが成人した養子さんからこんなことを言われたと話してくれました。 「私には、あなたではない別の女の人で、私を産んだ人がいることは分かっている。そして、その女の人は、私の人生にとって、とっても大切な人だと思う。しかし、大切な人だけどお母さんではない。私のお母さんは、今いるあなたが、ただ一人。」と言っておられました、また、私を生んだ人に感謝するとしたら、産んだことではなく、養子にすることを承諾してくれたことにこそ感謝すると、実親から命のバトンタッチをして育ててくれた養親へ感謝の思いが伝わってきました。

(文責:森和子)

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