提供型生殖補助医療について

出自を知る権利

「出自」とは広辞苑によると「出どころ、生まれ」「出生と同時に血縁に基づいて制度的に認知・規定される系譜上の帰属」とあります。すべての子どもは、誰から生まれたのか、その血縁関係を知る権利をもっています。それが奪われている状態なら、国はその権利の確保の実現を保障しなければなりません。それは、子どもの権利条約第7条、第8条が根拠となっています。

許斐有(1996)によると、「条約7条1項は子どもが『できる限りその親を知る権利』を有することを定めている。親とは、自然的な親、つまり血のつながった実親のことである」「子ども自身が、自分の出生について説明を求めたり、自分に関する記録の開示を要求したときに、これを拒否する理由はない。あるとすれば、子どもの年齢及び成熟の度合いなどを考慮に入れて子どもの最善の利益に反すると考えられる場合や他者のプライバシーを侵害する恐れがある場合などである」と説明しています。そして、他者のプライバシーの侵害については、開示に同意が前提となるので、プライバシーの侵害にはあたりません。(法学者 鈴木博人(2018)も賛同)

次に「できる限りその親を知る権利」の「できる限り」の意味について、考察します。
国連子どもの権利委員会の各国への指摘事項を参照するとその意味が見えてきます。
(平野裕二 https://www26.atwiki.jp/childrights/papes/41.html
フランスへ勧告;2016年「委員会は、自己の生物学的親及びきょうだいを知る子どもの権利を全面的に執行するためにあらゆる適切な措置をとるべきである」、ドイツへ勧告;2014年 匿名出産に関して「子どもが将来的にアクセスできる、親に関する秘密の記録を保存しておくべきである」、スイスへ勧告;2015年「委員会は,養子または生殖補助医療によって生まれた子どもが自己の出自を知る権利の尊重を可能な限り確保するための努力を強化するよう勧告する」

同様に、ノルウェー(1994年)、アイルランド(2016年)にも、勧告しています。 このような勧告内容を見れば、国連の意図が自ずと子どもの最善の利益を考慮し、生物学的親きょうだいの情報を与えることが必要である、という意味が明らかになります。 次に、条約第8条をみると「家族関係を含むその身元関係事項」についても子どもは保持する権利を持っており、もし奪われたら回復のための援助が必要だとされています。それは、自分自身がどこから来たのか、ルーツを知るということにつながり、自分の家系図を知ることにつながります。

人を木に例えると、いくら枝葉が地上で広がっていても、根っこの部分がぐらついていたら、立っておられません。出自を知ることは、その根っこの部分を知ることであると思います。

(文責:才村眞理)

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