提供型生殖補助医療について

ライフストーリーワーク(1)

ライフストーリーワーク(以後、LSW)とは、人が過去の経験を受け入れることを支援し、その生い立ちの歴史を共に紡ぎ、そして、今ここで生きていることに意義を見出し、未来に生きる自分自身を描けるよう、支援していくことです。(「精子・卵子の提供により生まれた人とライフストーリーワークをはじめるにあたって」2018)もともと、LSWは欧米で社会的養護(里親・養親宅や施設で暮らすこと)の子どものためにスタートしたものです。

2005年より才村ら(「生まれた家族から離れて暮らす子どもたちのためのライフストーリーブック」2009)は日本での社会的養護の子どもへの実践をスタートしており、そのLSWの理念や実践方法の応用版として、精子提供で生まれた人にも対象を広げています。成人して突然、提供での出生を知り、生きづらさを抱えた人に対して、セッションの形で行うLSWは、サポーター(実施者)と一対一で1回1~2時間、月1回程度、長期間実施するものです。現在の話題のセッションから始めて、少しずつ、過去の話題に進み、最後は未来について語る場を作ります。LSWの進行は生まれた人が主体となり、鍵を握っています。LSWは現在や過去の事実だけを取り上げるのでなく、その事実に伴う感情も取り扱い、図や絵などワークを通じて表現することにより、心が整理されることを想定しています。体験者の感想として、「過去を捨てる作業だと思ったが、簡単に捨てることはできない。告知の前後でバラバラとなった自分をつなげる作業だった」「過去のしんどかったことを入れておく部屋ができた」など、生きづらさが少し和らいだ表現をされています。

現在(2023年)では、このLSWの理念や実践方法が、精子・卵子提供で生まれた人へのサポートに役立つだけでなく、これから提供で子どもを持とうとする方々への子どもへの告知や家族の形成について考える機会を促す効果があるように思います。精子・卵子提供を選択する前に、カップルが生まれに関する真実を家族の歴史に組み込みながら、子どもを養育していくことがいかに幸せな家族を作る上で重要であるのか、という考えの根拠に通じると思われます。LSWの理念から、「提供により生まれた」という事実を、親は赤ちゃんの時から子どもにお話ししていくこと、提供により子を持つことを選択したことを誇りをもって話すことが重要であり、それにより、子どもがアイデンティティを形成し、自尊心を育みます。提供者の存在が幼少期から「家族のものがたり」の一部となり、提供の意図や提供者の『人となり』などが子どもに伝えられると、家庭での日常的LSWの実践につながっていきます。

(文責:才村眞理)

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